今回紹介する本は、内村鑑三著・鈴木範久訳「代表的日本人」(岩波文庫)です。
「日本人が書いたのに訳者がいるの?」と疑問に思った人もいるでしょう。元々この本は外国人向けに英語で書かれた本なのです。新渡戸稲造の「武士道」や岡倉天心の「茶の本」と同じく、明治時代に日本人の文化や思想を西欧に紹介する役割を担いました。
西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮上人
西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮上人、この5人が内村の考える「代表的日本人」です。生まれも育ちも仕事も時代もバラバラな5人ですが、読んでいくと何か共通したものを感じます。この本のテーマに沿えばそれは道徳的であるということなのでしょう。
もう少し自分なりの解釈を言うとするなら、私利私欲がなく、国とか社会とか民とか、そういうもっと大きなものために尽すという使命感に富んだ人々ではないかと思います。
西郷隆盛を題材にしたドラマ・映画・小説などはたくさんあるので、彼についてはある程度知っている人が多いでしょう。しかし上杉鷹山や二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人に関してはこの本で初めて知るという人は少なくないのではないでしょうか。私はそうでした。
二宮尊徳(二宮金次郎)は、全国の小学校に銅像があったくらい有名ですが、彼が何をしたのかこの本で初めて知りました。ちなみに私はこの5人の中で二宮尊徳が一番好きです。この本を読んだら、誰が一番気に入ったか人と語り合うのも面白いと思います。
伝記、のようなもの
この本は代表的日本人5人の業績、為人、生涯などを紹介しています。このように書くと伝記のように思われますが、伝記ではないと私は思います。内村は伝記の語り手としては、主観が強く、語りが熱すぎるのです。伝記の語り手とは、もっと冷静に、かつ客観的であるべきでしょう。また内村はキリスト教徒の視点から5人を解釈しており、一般的な伝記とはやはり異なった性格を持っています。
確かに内村は主観的であり、語りは熱を帯びています。しかしそれは臨場感をもたらすという利点もあります。読者はまさに内村の講演を聞いているかのような気分、ライブ感を味わうことができるのです。
本書は伝記ではありませんが、そのことが本書の評価を下げる要因になるとは思いません。伝記ではないかもしれませんが、人の胸を熱くするに足る名著です。
まとめ
内村鑑三「代表的日本人」を紹介しました。心揺さぶられる名著なのでぜひ読んでみてください。絶版しない岩波文庫なので、ネットで簡単に買えます。
最後に私が最も気に入った一文を、二宮尊徳の章から引用します。
ただ魂のみ至誠であれば、よく天地をも動かす
内村鑑三「代表的日本人」岩波文庫、P.88
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